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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)289号 判決

アメリカ合衆国

ニュージャージ州 〇八五四〇 プリンストンインデペンデンス・ウェイ 二

原告

アールシーエー トムソンライセンシング コーポレーション

(旧商号

アールシーエー ライセンシングコーポレーション)

右代表者

ピーター エム エマニュエル

右訴訟代理人弁理士

田中浩

荘司正明

木村正俊

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官

麻生渡

右指定代理人

高橋泰史

奥村寿一

吉野日出夫

橘昭成

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一  原告

1  特許庁が昭和六一年審判第一二二九九号事件について平成二年七月二六日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

アールシーエー・コーポレーションは、一九八一年四月二〇日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和五七年四月一六日、名称を「自動ビデオ信号ピーキング制御装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和五七年特許願第六四六一〇号)をしたところ、昭和六一年二月六日拒絶査定を受けたので、同年六月一六日査定不服の審判を請求し、昭和六一年審判第一二二九九号として審理されたが、原告は、同社から本願発明に係る特許を受ける権利を譲り受け、昭和六三年一〇月二〇日特許庁長官に対しその旨届出をした結果、平成二年七月二六日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年九月一〇日原告に送達された。なお、原告のために本件審決に対する出訴期間として九〇日が附加された。

二  本願発明の要旨(特許請求の範囲)

画像を表わす輝度及びクロミナンス信号成分を含むビデオ信号の発生源と、前記ビデオ信号から前記輝度信号成分を分離する手段とを含むビデオ信号処理方式において、前記輝度信号からピーキング信号成分を生成する信号ピーキング手段と、前記ピーキング信号成分を前記輝度信号と組み合わせて高周波成分が強調されたピーキング済輝度信号を生成する手段と、可調整ピーキング制御手段を含み、前記ピーキング済輝度信号に応答してその信号の高周波成分の大きさに従って制御信号を発生する制御信号発生手段と、前記信号ピーキング手段に結合され、前記制御信号に応答して前記ピーキング信号成分の大きさを制御し、これによって前記強調された高周波成分の大きさを前記制御信号のレベルに従って制御する手段とを含む輝度信号の高周波数ピーキング内容を自動的に制御する自動ビデオ信号ピーキング制御装置

(別紙第一参照)

三  審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

これに対して、昭和四八年特許出願公開第七一五二九号公報(以下「引用例1」という。)には、入力端子1に供給される映像信号中に含まれる高周波成分の大きさに応じて、周波数特性制御回路2中のピーキングコンデンサCE及び高域抑圧用インダクタLEが負荷抵抗RLと関連する程度、すなわち、ピーキングコンデンサCE及び高域抑圧用インダクタLEが関与する程度を相補的に制御することにより、映像信号中の高周波成分を強調あるいは抑圧させ、これによって出力映像信号中の高域成分をほぼ一定に維持するように自動画質調節することが示されており、さらに、周波数特性制御回路2の出力の一部から瀘波器4により高域成分を抜き出し、検波器5で検波整流した後、直流増幅器6で増幅して制御電圧を得るとともに、直流増幅器6への直流電圧印加端子7に印加する直流電圧の値を変えることにより制御電圧の大きさを変えて、前記した自動画質調節の程度を高域抑圧特性から高域補強特性まで連続的に変えることができることが示されている。

また、昭和五二年実用新案登録願第一六八四〇号(昭和五四年実用新案登録出願公開第九四一二一号)の願書に添付された明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、入力カラービデオ信号から輝度信号成分を分離し、その輝度信号の高域成分を強調して画像の輪郭強調を行うことが示されている。

そこで、本願発明と前記各引用例に示されている技術事項とを比較検討する。

まず、自動的な画質調節技術に関することから引用例1記載の発明と比較すると、引用例1記載の発明においては、ピーキングコンデンサCEが関与する程度がインダクタLEに比べて高い範囲はピーキング動作が行われており、それ故、その範囲においては、周波数特性制御回路2の出力はピーキング済輝度信号に相当し、また、画質調節用の直流電圧印加端子7に変化する直流電圧を印加することは可調整ピーキング制御に相当すると考えられるので、本願発明と引用例1記載の発明とは、輝度信号にピーキングを施す手段と、可調整ピーキング制御手段とを含み、ピーキング済輝度信号中の高周波成分の大きさに従って制御信号を発生する制御信号発生手段と、その制御信号に応答して前記ピーキングを施す手段におけるピーキング量を制御し、ピーキング済輝度信号中の高周波成分の大きさを制御信号のレベルに従って制御する手段を備えている点で共通している。

しかし、両者は、(1)前記した輝度信号にピーキングを施す手段に関し、本願発明においては、輝度信号からピーキング信号成分を生成する信号ピーキング手段及びそのピーキング信号成分を輝度信号と組み合わせてピーキング済輝度信号を生成する手段で構成されているのに対して、引用例1記載の発明においては、輝度信号が伝達される周波数特性制御回路中のピーキングコンデンサ(及び高域抑圧用インダクタ)の関与によりピーキング済輝度信号を生成させている点、(2)ピーキング済輝度信号中の高周波成分の大きさを制御信号のレベルに従って制御する手段に関し、本願発明においては、前記信号ピーキング手段により生成されるピーキング信号成分の大きさを制御しているのに対して、引用例1記載の発明においては、ピーキングコンデンサ(及び高域抑圧用インダクタ)の関与する程度を制御している点、で相違している。

なお、本願発明においては、制御の対象となる輝度信号が「画像を表わす輝度及びクロミナンス信号成分を含むビデオ信号の発生源と、前記ビデオ信号から前記輝度信号成分を分離する手段」から得られているが、このようなカラービデオ信号から得られる輝度信号に画質調節を施すことは前記引用例2にも示されているように当業者に既知であり、この限定に格別の重要性は認められない。

次に、前記相違点のうちまず、相違点(1)について検討する。

従来からピーキングを施す手段としては、映像信号伝送周波数特性をピーキングコンデンサあるいはピーキングコイルを用いて調整する技術が知られており(以下「前者の技術」という。)、さらに、映像信号波形に良好なプリシュート及びオーバーシュートを付与するために、二次微分波形(例えば昭和五〇年特許出願公開第一〇八八一九号公報(以下「周知例1」という。)参照)や遅延された映像信号を利用して同様の合成波形(例えば昭和四八年特許出願公開第八二七二四号公報(以下「周知例2」という。)参照)を形成して画質調節用補正信号として原映像信号に合成する技術もいわゆるイメージエンハンサーあるいは輪郭強調技術として知られている(以下「後者の技術」という。)が、引用例1記載のピーキングを施す手段は前記従来技術のうちの前者の技術に相当し、本願発明は、本願明細書の記載を参酌すれば、後者の技術に相当するということができる。そして、後者の技術においては、画質調節用補正信号を生成する手段とその補正信号を原映像信号に合成して画質調節済映像信号を生成する手段とで構成されるのが通常であり、本願発明における信号ピーキング手段とピーキング済輝度信号を生成する手段とは前記の通常の構成に相当するということができる。そして、画質調節の内容として、前者の技術におけるような映像信号伝送周波数特性を調整するものに代えて、後者の技術におけるような映像信号波形にプリシュート及びオーバーシュートを付与するイメージエンハンサーあるいは輪郭強調技術によるものとすること自体は、それらの画質調節の内容はともによく知られており、かつ、この置換により導かれるといえる画質調節の自動制御を実施するうえでの注目すべき構成上の便益や作用効果を見出すこともできないので、当業者の必要に応じて適宜に採用すべき設計の変更に相当するということができる。それ故、この点の相違は、そのような画質調節の内容に関する設計の変更を行い、それに伴って通常必要とされる構成を示したにすぎないものであって、格別のものということはできない。

次に、相違点(2)について検討する。

輝度信号の高周波数ピーキングの程度を制御するに当たって、ピーキングを施す手段の構成が、本願発明におけるように、ピーキング信号成分を生成する手段とそれを原信号に組み合わせてピーキング済信号を生成する手段とに分割されている場合には、制御信号によりピーキング信号成分を生成する手段を制御することとなるのは必然的な構成であって、前記相違点(1)の検討において述べたように、本願発明におけるピーキングを施す手段の構成をそのような二分割されたものに構成変更することに技術上格別の進歩性を認め難いことから、この点の相違は前記相違点(1)の構成変更に伴って必然的に付加される構成の変更であって、その変更に格別の考案力を必要とするということはできない。

以上のとおりであるので、本願発明は、引用例1に示されている技術事項に引用例2に示されている技術事項及び周知の技術事項を加えて当業者が容易に発明をすることができたと認められるので、特許法二九条二項により特許を受けることができない。

四  審決を取り消すべき事由

引用例1及び2に審決認定の技術内容が記載されていること、本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点が審決認定のとおりであること、相違点(1)について、審決が認定した周知技術が存在すること、引用例1記載の発明及び本願発明と周知技術との対応関係が審決認定のとおりであること(ただし、各周知例は引用例1記載の発明に対応するものであるから、各周知例が本願発明と対応する周知技術を記載したとする部分は除く。)は認めるが、審決は、引用例1記載の発明の技術内容を誤認し、作用効果の差異を看過して相違点(1)の判断を誤り、周知技術の技術内容を誤認して相違点(2)についての判断を誤り、本願発明の奏する顕著な作用効果の予測困難性を看過したもので違法であるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1

審決は、審決のいわゆる前者の技術(映像信号伝送周波数特性をピーキングコンデンサーあるいはピーキングコイルを用いて調整する技術。以下においても単に「前者の技術」という。)におけるような映像信号伝送周波数特性を調整するものに代えて審決のいわゆる後者の技術(映像信号波形に良好なプリシュート及びオーバーシュートを付与するために、二次微分波形や遅延された映像信号を利用して同様の剛性波形を形成して画質調節用補正信号として原映像信号に合成する技術。以下においても単に「後者の技術」という。)におけるような映像信号波形にプリシュート及びオーバーシュートを付与するイメージエンハンサーあるいは輪郭強調技術によるものとすることは当業者の必要に応じて適宜に採用すべき設計の変更に相当するから、相違点(1)は設計変更に伴う必然的な構成にすぎない、と判断している。

しかしながら、前者の技術を後者の技術で置換することが容易であったとしても、後者の技術は前者の技術に示されている自動制御になじまないから、自動制御を伴った前者の技術を後者の技術で置換しても本願発明の構成を得ることはできない。

すなわち、前者の技術とされている引用例1記載の発明における画質調節の自動制御は、原映像信号を高周波成分と低周波成分とに分けて両成分を差動的に制御し、低周波成分と高周波成分の比率を自動制御するものであって、原映像信号をそのままにしてピーキング信号成分又は高周波成分のみを制御するもの、言い換えれば、高周波数成分の量(強さ)のみを自動制御しているものではない。したがって、例えば、審決が後者の技術とした周知例2第3図の回路で前者の技術の引用例1記載の自動制御を伴った回路を置換した、とすれば、加算回路16に入力する二つの信号19、22の双方を差動的に自動制御することになるが、この構成は本願発明におけるピーキング量のみの自動制御とは異なる。

このことは、例えば原映像信号に高周波数の雑音が加わった場合、引用例1記載の発明の方式では、高周波数成分が抑制されると同時に低周波数成分が増強される結果、引用例1(二頁左上欄六行ないし一一行)に記載されているように雑音は抑圧されるが、画像がぼけ、更に雑音が多量になれば映像信号中の高周波成分は全く失われて不鮮明な画像になるのに対して、本願発明では、画質調節の自動制御はピーキング量のみに加わり、原映像信号には全く加わらないため、雑音が極端に多い場合にピーキング動作がなくなるだけで、原映像信号の高周波数成分が失われることがないという作用効果の顕著な差異からも、基礎づけられる。

そうしてみると、本願発明は引用例1記載の発明の構成の一部を後者の技術で置換したものでなく、かつそれから容易に想到し得るものでもないから、審決の前記の判断は誤りであるというべきである。

2  取消事由2

審決は、相違点(2)について、輝度信号の高周波数ピーキングの程度を制御するに当って、ピーキングを施す手段の構成が、本願発明におけるように、ピーキング信号成分を生成する手段とそれを原信号に組み合わせてピーキング済信号を生成する手段とに分割されている場合には、制御信号によりピーキング信号成分を生成する手段を制御することとなるのは必然的な構成であると判断している。

しかしながら、装置がピーキング信号成分生成手段とピーキング信号成分を原信号に組み合わせてピーキング済輝度信号を生成する手段とに分割されている周知例1記載の発明では、ピーキング信号成分生成手段である微分位相反転増幅回路5とピーキング済輝度信号生成手段である合成回路8との間に可変回路6が介在していて、これによりピーキング量の調節を行うようになっており、ピーキング信号成分生成手段である微分位相反転増幅回路5を制御信号によって制御するようにはなっていない。また、同様な周知例2の場合も、ピーキング信号成分の生成の主要部である引算回路13又は広域濾波装置14を制御信号によって制御するようにはなっておらず、これらによって作られた二次微分波形(第4図の21)を単に位相反転するだけの位相反転装置15において可変抵抗器R5によりピーキング信号成分の大きさを変えるようになっている。

右のとおり、ピーキング信号成分生成手段を制御信号によって制御することが行われていないことに、前記のとおり相違点(1)における判断が根拠を欠くことをも合わせると、前記の相違点(2)についての審決の判断も理由がないというべきである。

3  取消事由3

本願発明には、引用例1記載の発明にはない顕著な作用効果があり、この作用効果は予測が困難であるから、この点を看過して当業者が容易に発明することができたとした審決の判断は誤りである。

すなわち、引用例1記載の発明では、ピーキング用コンデンサと広域抑圧用インダクタとを制御信号により相補的に制御する必要上、二組の差動増幅器Q3Q4及びQ5Q6を必要とし、これを一組ですませるための示唆は何も記載されていない。これに対し、本願発明では一組の差動増幅器8688で足りるために、回路構成が簡潔になる。

また、引用例1記載の発明では、輝度信号そのものを変形してピーキング済輝度信号を得ているため、輝度信号成分が不所望な歪を生じやすいが、本願発明ではピーキング信号成分と輝度信号成分とを合成してピーキング済輝度信号を得ているために、輝度信号成分が歪むのを防ぐことができる。

さらに、引用例1記載の発明では、輝度信号が微弱で雑音が多い場合に、輝度信号中の高周波数成分が抑圧されて画像がぼけ、極端な場合は画像が不鮮明になるが、本願発明では、このような場合でも輝度信号自体はそのまま送られるので、画像がぼけたり不鮮明になったりすることがない。

第三  請求の原因の認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

二  同四の審決の取消事由は争う。審決の認定、判断は正当であって、審決に原告主張の違法は存在しない。

1  取消事由1について

引用例1には、第1図に基本的構成として、映像信号の広域成分の量に応じて周波数特性制御回路2の高域レスポンスを制御することにより、出力端子に現れる映像信号の高域成分をほぼ一定にすることが記載されている。また、第3図に記載された実施例には、高域強調回路と高域抑圧回路とを制御信号でともに制御することが記載されているが、この実施例は、高域抑圧特性から高域強調特性まで広範囲にわたって画質調節を行うために高域抑圧回路も設けられているのであり、単に高域強調特性の調整を行うのであれば高域強調回路のみを設け、これを制御信号で制御すればよいことが明らかである。したがって、引用例1には、前者の技術に当たる周波数特性制御回路2の高域レスポンスを映像信号の高域成分の量に応じて自動制御することが記載されているというべきである。なお、第3図記載の実施例では、制御されるのは、高周波成分だけであって、低周波成分と高周波成分とがともに制御されるのではない。

そして、後者の技術の例である周知例1及び周知例2には、原信号からピーキング成分生成手段によりピーキング信号成分を生成し、調節手段を介して原信号と合成するとともに、調節手段によりピーキング信号成分の量を調節して画質調節することが記載されている。ところで、自動制御を行う際に、手動の調節手段を自動制御手段に変更すればよいことは自明であるから、前者の技術に当たる引用例1記載の技術を後者の技術に置き換える場合に引用例1記載の発明の周波数特性制御回路2を後者の技術で置換し、映像信号の高域成分の量に応じて調節手段を自動制御することに何らの困難性はない。

なお、原告は、引用例1記載の実施例と比較して、本願発明では画質調節の自動制御はピーキング量のみに加わり、原映像信号には全く加わらないので、雑音が極端に多い場合ピーキング動作がなくなるだけで、原映像信号の高周波成分が失われることがないという作用効果がある、と主張する。

しかしながら、引用例1の実施例記載のものは高域強調回路だけでなく高域抑圧回路も設けており、ノイズに対する対応も十分に考慮されており(二頁左上欄六行ないし一一行)、入力映像信号に多くのノイズが含まれている場合には映像信号とともにノイズを抑圧した方がむしろ好ましい絵となる。一方、本願発明の場合は、入力映像信号に多くのノイズが含まれていると、ノイズもそのまま出力されるため、かえって見苦しい絵となるものであり、本願発明によって得られる絵が引用例1記載の発明により得られる絵より好ましいということはできない。したがって、本願発明が引用例1記載の実施例に比べて技術的に優れた作用効果があるとはいえない。

2  取消事由2について

原告が指摘する審決の認定箇所中「ピーキング信号成分を生成する手段を制御する」とは、「ピーキング信号成分を生成する手段により生成されるピーキング信号成分の大きさを制御する」との意味である。

ところで、本願発明の特許請求の範囲には、「前記信号ピーキング手段に結合され、前記制御信号に応答して前記ピーキング信号成分の大きさを制御し、これによって前記強調された高周波成分の大きさを前記制御信号のレベルに従って制御する手段」との記載があり、この記載によれば、実施例に記載された、信号ピーキング手段自体を制御する構成以外に、また、信号ピーキング手段(の出力側)に制御手段を結合し、該制御手段により信号ピーキング成分の大きさを制御する構成も含まれる。そして、後者の技術の例として示された周知例1及び周知例2には、信号ピーキング手段(の出力側)に結合され、ピーキング信号の大きさを調節(制御)し、これによって強調された高周波成分の大きさを調節(制御)する手段が記載されている。

後者の技術の例におけるピーキング信号成分の大きさを調節する手段が手動で調節しているのに対して、本願発明のピーキング信号成分の大きさを制御する手段は、制御信号に応答して制御(自動制御)しているが、ともにピーキング信号成分の大きさを制御(調節)するものであり、自動制御技術を用いる際に、従来手動で調節(制御)していた箇所を自動制御するようにすることは当業者が通常採用する事項であるから、後者の技術において、引用例1に示される制御信号により制御するという技術事項を用いる場合に制御信号によりピーキング信号成分の大きさを調節する手段を制御することは必然的な構成である。

なお、仮に、制御手段によって制御を受ける部分が信号ピーキング手段であると限定的に解釈されるとしても、後者の技術において引用例1に示される自動制御技術を用いる場合に信号ピーキング手段の出力側に結合された調節手段を制御して出力の大きさを制御するのに代えて、信号ピーキング手段自体を制御手段により制御して出力の大きさを制御することは当業者が適宜なしうることであり、そのことにより格別作用効果上の差異を生ずることもない。

3  取消事由3について

本願発明の特許請求の範囲には、具体的な回路構成が記載されてはおらず、特許請求の範囲に記載された範囲で引用例1記載の発明と作用効果上の差異がない。

そして、具体的回路構成のうえでは、引用例1記載の発明では、画質調節として高域強調だけでなく、高域抑圧の調節もできるようにしているために二組の差動増幅器が設けられており、本願発明のように単に高域強調の調節だけを行うのであれば、一組の差動増幅器で足りるということは当然のことである。

なお、引用例1記載の発明では輝度信号成分が不所望な歪を生じやすいのに対して、本願発明では輝度信号成分が歪むのを防ぐことができるという作用効果の差異があるとしても、この作用効果は、後者の技術自体が有している作用効果であり、引用例1記載の発明と後者の技術とを組み合わせたものと本願発明との間においては、作用効果の差異はない。

さらに、前述のとおり、入力映像信号に多くのノイズが含まれている場合、引用例1記載の発明では映像信号とともにノイズが抑圧されむしろ好ましい絵となるのに対して、本願発明ではノイズもそのまま出力されるため見苦しい絵となるから、この点において、本願発明が引用例1記載の発明より優れた作用効果を奏するものではない。

第四  証拠関係

本件記録中の証拠目録の記載を引用する(後記理由中において引用する書証はいずれも成立について争いがない。)。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)、同三(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

また、引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、本願発明と引用例記載の発明との一致点及び相違点が審決認定のとおりであること、相違点(1)について、審決が認定した周知技術が存在すること、引用例1記載の発明及び本願発明と周知技術との対応関係が審決認定のとおりであること(ただし、各周知例は引用例1記載の発明に対応するものであるから、各周知例が本願発明と対応する周知技術を記載したとする部分は除く。)も、当事者間に争いがない。

二  甲第二ないし第五号証によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

1  本願発明は、例えばテレビ受像機によって処理されるビデオ信号内のピーキングの量を自動的に制御する方式に関する(本願明細書二頁四行ないし六行)。

テレビ受像機によって処理されるビデオ信号に応じて生成する再生画像は、ビデオ信号の振幅遷移の勾配すなわち「急峻度」を増すことにより主観的に改善すなわち増強することができる。この増強は通常信号の「ピーキング」と呼ばれるもので、一般にビデオ信号の高周波数情報に関係し、水平垂直双方の画像細部情報について行うことができる。例えば水平ピーキングは振幅遷移の直前に信号の「プレシュート」を、直後に「オーバーシュート」を発生して黒白及び白黒の遷移を強調するようにすることにより達することができる。テレビ受像機で処理されるビデオ信号の表わすピーキングの量は種々の因子に関係する。信号のピーキングはビデオ信号の高周波数応答を強調するから、高周波雑音の有無もビデオ信号に印加すべきピーキングの量の決定時の勘案事項である。例えば強いビデオ信号より比較的大量の雑音を含んでいる可能性のある弱いビデオ信号に対してはピーキング量を減ずるのが好ましいと考えられる。

したがって数個の源から印加されるピーキング成分を含むビデオ信号の高周波数内容の関数としてビデオ信号のピーキング量を自動制御して、種々の信号条件で画像細部の良好な再生像を生ずる対象に適合するようにビデオ信号のピーキング量を最適にすることが望ましいと考えられる。またテレビジョン受像方式では視聴者がその好みに応じてビデオ信号と再生画像のピーキング内容を手動制御する手段を持つことが望ましいことが多いため、この形式の方式ではその自動ピーキング制御機能が、希望ピーキング制御の設定によって決まる視聴者の好みに合うようにピーキングレベルを維持する働きをしなければならない。

本願発明は、このような点を解決すること(本願明細書二頁七行ないし四頁六行、昭和六〇年九月二七日付手続補正書二頁六行ないし一四行)を技術的課題(目的)とするものである。

2  本願発明は、前記技術的課題を解決するために本願発明の要旨記載の構成(昭和六一年七月一五日付手続補正書七枚目二行ないし一八行)を採用した。

3  本願発明は、前記構成により、ピーキング制御回路網は負荷インピーダンス95の可動接片及びトランジスタ99を介して輝度処理回路58に供給されるビデオ信号中のピーキング成分を含む高周波数情報の量を感知し、その量に比例する制御信号を発生して電流源トランジスタ90の導電度を自動的に制御し、これによって回路40の発生する信号ピーキング量を制御する結果、処理回路58に供給される輝度信号に与えられるピーキングの量が視聴者のピーキング好み制御器の設定に適合する所望限度内に維持される(本願明細書一三頁一四行ないし一四頁三行、昭和六一年七月一五日付手続補正書四頁一行ないし五頁一〇行)という作用効果を奏するものである。

三  取消事由1について

1  引用例1に、入力端子1に供給される映像信号中に含まれる高周波成分の大きさに応じて、周波数特性制御回路2中のピーキングコンデンサCE及び高域抑圧用インダクタLEが負荷抵抗RLと関連する程度、すなわち、ピーキングコンデンサCE及び高域抑圧用インダクタLEが関与する程度を相補的に制御することにより、映像信号中の高周波成分を強調あるいは抑圧させ、これによって出力映像信号中の高域成分をほぼ一定に維持するように自動画質調節することが記載されていることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、甲第六号証によれば、引用例1には、右の周波数特性制御回路2による相補的制御について、「この周波数特性制御回路の動作を説明すると、トランジスタQ1のコレクタにはピーキングコンデンサCEで高域強調された映像信号電流が流れ、トランジスタQ2のコレクタには直列インダクタLEで高域抑圧された映像信号電流が流れる。今、周波数特性制御端子8に6Vより十分低い電圧を印加すると、Q1のコレクタ電流はすべてQ4から供給され、Q2のコレクタ電流はすべてQ5から供給される。したがってRLにはQ1のコレクタ電流が流れ、出力端子3には高域強調された映像信号が得られる。反対に、周波数特性制御端子8に6Vより十分高い直流電圧を印加すると、Q1のコレクタ電流はすべてQ3から供給されQ2のコレクタ電流はすべてQ6から供給される。したがって、RLにはQ2のコレクタ電流が流れ、出力端子3には高域の抑圧された映像信号が得られる。次に、周波数特性制御端子8に6Vの直流電圧を印加すると、Q1のコレクタ電流はQ3、Q4から半分ずつ供給され、Q2のコレクタ電流はQ5、Q6から半分ずつ供給される。したがって、RLにはQ1とQ2のコレクタ電流が半分ずつ流れ、出力端子3には高域成分の抑圧も強調もされない。入力映像信号とほぼ同じ映像信号を得る。このようにして周波数特性制御回路2は制御端子8に印加する直流電圧を変えることにより高域抑圧特性から高域強調特性まで連続的に変えることができる。」(三頁左上欄一〇行ないし右上欄一六行)との記載があり、別紙第二の第3図が添附されていることが認められる。

右の争いがない事実と認定事実によれば、引用例1記載の発明の自動画質調節技術においては、画質調節は周波数特性制御回路2により行われるものであって、この周波数特性制御回路2は入力端子1から入力される映像信号に対し、それぞれピーキングコンデンサCEによる高周波成分の強調(高域強調)とインダクタLEによる高周波成分の抑圧(高域抑圧)とを行い、これらにより生成された高域強調映像信号(トランジスタQ1のコレクタを流れる映像信号電流)と高域抑圧映像信号(トランジスタQ2のコレクタを流れる映像信号電流)とを共通の負荷抵抗RLで加算して合成し、各映像信号の加算比率(一方が零の場合を含む。)に応じて高周波成分の大きさが増減する出力映像信号を得るようにしたものであること、この周波数特性制御回路2による画質調節の自動制御は、制御端子8から供給される制御信号(映像信号中に含まれる高周波成分の大きさに対応した直流電圧)に応じて、右の負荷抵抗RLで加算、合成される各映像信号の大きさ(トランジスタQ1、Q2の各コレクタ電流のうち、負荷抵抗RLを通じて流れる電流分)を差動的(相補的)に制御することによってそれらの加算比率(ピーキングコンデンサCE及びインダクタLEが出力映像信号に関与する程度)を制御し、出力映像信号中の高周波成分の大きさを強調、抑圧両方向に自動制御するものであることを認定することができる。

2  他方、前記二の認定事実によれば、本願発明における画質調節が原映像信号(輝度信号)に対し、その高周波成分を強調するピーキング信号成分(輝度信号から信号ピーキング手段により別途に生成された信号成分)を付加することによりさなれるものであり、その自動制御が、制御信号に応じて原映像信号に付加されるピーキング信号成分の大きさ(すなわち原映像信号の高域強調量)のみを制御するものであることが明らかである。

3  前記1、2における検討の結果によれば、引用例1記載の発明は、入力映像信号(原映像信号)から個別に生成された高域強調映像信号と高域抑圧映像信号の大きさを差動的に制御し、それらの加算比率を自動制御するのであるから、確かに、原映像信号に付加されるピーキング信号成分(高周波成分)の大きさのみを制御する本願発明とは画質の自動制御の態様を異にする、ということができる。

しかしながら、前記1の認定事実と前記争いがない事実によれば、引用例1記載の発明は、もともと、本願発明と自動化の対象とする画質調節技術を異にし、ピーキングコンデンサCEとインダクタLEによる原映像信号の高域強調量と高域抑圧量とを調節する前者の技術に相当するからこそ、その自動化に当たり右のような自動制御態様を採用したことが、明らかである。

これに対し、画質調節技術として本願発明のように原映像信号にピーキング信号成分を付加する後者の技術に相当するものを採用する場合に、ピーキング信号成分の大きさを自動制御するだけで画質調節を自動化できることは、原映像信号に付加されるピーキング信号の大きさ(高域強調量)によって画質調節を行うものである後者の技術の性質自体から極めて自然に導かれるといわなければならない。したがって、引用例1記載の発明において、前者の技術を後者の技術に置換するに当たり、本願発明におけるような態様での自動制御を行うようにすることが当業者にとって格別想到困難であるということはできない。

このことは、次のような後者の技術の具体例からも裏付けられているというべきである。すなわち、甲第八号証と前記当事者間に争いがない事実によれば、周知例1は、特許出願公開公報であって、末尾に別紙第三の第4図及び第5図が添附され、後者の技術を開示しているが、その周知例1には、「この発明の画質調節装置は第4図に示すように微分・位相反転・増幅回路5、可変回路6、遅延回路7及び合成回路8からなり、先ず第5図(a)に示すような原信号を微分・位相反転・増幅回路5に供給して微分すると共に位相反転して増幅すると出力側には第5図(b)に示すような信号が得られる。この微分信号を可変抵抗6を介して合成回路8に加える。一方、前記原信号の一部を遅延回路7に加えて遅延させると第5図(c)に示すような信号が得られ、これを可変回路8に加えて前記微分信号と合成すれば第5図(d)に示すような輪郭補正用信号により画像の輪郭が補正され、いわゆる画質調節が行なわれる。」(一頁右下欄一八行ないし二頁左上欄一二行)と記載されていることが認められ、後者の技術の具体例である周知例1には可変回路(可変抵抗)6により、原映像信号に付加されるピーキング信号成分(微分・位相反転・増幅回路5の出力)の大きさを調節して画質調節を行うことが明示されており、このような画質調節機能を自動化するには、ピーキング信号成分の大きさの調節を自動制御すればよいことは当業者にとって自明の事項ということができるのである。

4  原告は、引用例1が開示する画質の自動制御の態様を後者の技術、例えば周知例2の第3図の回路で置換しても、ピーキング信号成分又は高周波成分の大きさのみを自動制御するものとはならない旨を主張する。

しかしながら、対象とする画質調節技術が異なれば、これを自動化する場合の自動制御の態様も異なることは当然のことであり、後者の技術を対象とする場合にピーキング信号成分の大きさのみを自動制御すればよいことは、前記のとおり当業者に自明の事項というべきであるから、この原告の主張は理由がない。

もっとも、甲第九号証によれば、周知例2は、特許出願公開公報で、別紙第四の第3図が添附されているが、周知例2の第3図の回路を用いる画質調節技術は、入力映像信号から生成されたピーキング信号成分(位相反転した二次微分波形)22を、入力映像信号そのものに付加するのではなく、入力映像信号からその高周波成分を除去して生成された低周波成分(低域周波数成分波形)19に付加する(加算回路16で加算する)というものであること(二頁右上欄一四行ないし右下欄九行)が認められ、この認定事実の下で考えると、この周知例2記載の画質調節技術は、入力映像信号から生成された二つの信号成分の加算により画質調節を行うものである点で引用例1記載の発明が自動化の対象とする画質調節技術と類似するということができ、このような類似性からみればその自動化に際しては、原告主張のとおり、ピーキング信号成分22の大きさのみを自動制御するのではなく、引用例1記載の発明の自動化の態様に倣い、加算回路16に入力されるピーキング信号成分22と低周波成分19の双方の大きさを差動的に制御する自動制御の態様を採用することこそが想到される、というべき余地がなくはない。

しかしながら、前記1における検討の結果と認定事実によれば、引用例1記載の発明の画質調節技術において生成される信号成分は、高域強調映像信号と高域抑圧映像信号とであり、これらの映像信号は一方の加算比率を零として単独で映像信号として用いられる場合があることからも明らかなとおり、入力映像信号の高域を強調、抑圧しただけのものであって、それぞれが画像を表示するのに十分な高周波成分と低周波成分とを含み、原告主張のように入力映像信号を高周波成分と低周波成分とに分けたものではなく、これら各映像信号の加算によって画質調節を行うもので、引用例1記載の発明はまさしく前者の技術に相当するものである。これに対し、甲第九号証によれば、周知例2には、「本発明をテレビジョン受信機の画質調節回路に用いる場合は、位相反転および増幅あるいは減衰装置15の増幅度あるいは減衰度を変えることにより画質調節動作が得られる。即ち、上述装置15の減衰度を充分大きく取れば、出力端子17には輪郭のなまった波形19が得られ、上述装置15の増幅度を適当に選ぶことにより出力端子17には所望の大きさのプリシュートとオーバーシュートの付与された映像信号を得ることができる。」(二頁右下欄一六行ないし三頁左上欄五行)との記載及び「位相反転および増幅器15の増幅度を変える。即ち可変抵抗器R5を動かすことにより、加算器16に加える二次微分波の大きさを変化させ、出力端子17に現われる映像信号に付与されるプリシュートおよびオーバーシュートの大きさを変えるところのテレビジョン受信機の画質調節回路となる。」(三頁左下欄二行ないし八行)との記載があることが認められ、周知例2には、低周波成分19に付加されるピーキング信号成分22の大きさの調節により画質を調節することが開示されているということができるから、周知例2記載の画質調節技術は、ピーキング信号成分の付加対象が入力映像信号そのものではなく、その低周波成分であるにしても、あくまでも後者の技術の性格を失わないことが明らかである。したがって、その自動化に当たり、原告主張のような制御態様を採用すべき余地があるからといって、後者の技術を対象とする場合の前記の制御態様、すなわちピーキング信号成分の大きさのみを自動制御する態様をとることも排斥されず、このような自動制御の態様も当然に想到されうるというべきである。いずれにしても、原告の主張は、前述のとおり理由がない。

5  さらに、原告は、本願発明は、前記自動制御の態様の相違に基づき、引用例1記載の発明の作用効果と異なる顕著な作用効果を奏するから、この点からも本願発明のような自動制御の態様の採用は容易ではない、と主張する。

しかしながら、後者の技術では、前述のとおり、原映像信号又は原映像信号から高周波成分を除去した映像信号に付加されるピーキング信号成分の大きさ(ピーキング量)を調節することにより画質調節が行われるのであるから、画質調節に際し映像信号自体が直接調節されることはなく、雑音が極端に多い場合の調節状態でも、映像信号に対するピーキング動作がなくなる(映像信号にピーキング信号を付加しない)だけで、映像信号自体の高周波成分が失われないことは明らかであり、原告が本願発明の作用効果として主張するところは、後者の技術自体、すなわち本願発明が自動化の対象とする画質調節技術によって当然にもたらされる自明の作用効果にほかならない。

そうすると、引用例1記載の発明との作用効果の差異も自動化の対象とする画質調節技術の相違により当然に予測されるものにすぎず、原告主張の本願発明の作用効果を格別顕著なものということはできず、したがって、このことを理由に本願発明のような自動制御態様の採用が容易でないとする原告の主張は理由がない。

6  以上のとおり、取消事由1は失当であり、この点に関する審決の認定判断に誤りはない。

四  取消事由2について

甲第八、第九号証と前記当事者間に争いがない事実によれば、周知例1に記載された後者の技術においては、ピーキング信号成分を生成する信号ピーキング手段(微分・位相反転・増幅回路5)の出力側に結合された可変回路6によりピーキング信号成分の大きさ(ピーキング量)が調節されること、同様、周知例2に記載された後者の技術においては、ピーキング信号を生成する信号ピーキング手段(引き算回路13、高域濾波装置14)の出力側に結合された位相反転及び増幅あるいは減衰装置15の可変抵抗器R5によりピーキング信号成分の大きさ(ピーキング量)が調節されることが認められる。

したがって、確かに、後者の技術におけるピーキング量の調節は、信号ピーキング手段自体によってではなく、その出力側に結合された調節手段によって行われる場合があることは否定することができず、後者の技術を対象としてピーキング量の自動制御を行う場合に信号ピーキング手段自体を制御することが必然的構成であるということはできない。

しかしながら、後者の技術を対象とするピーキング量の制御は、信号ピーキング手段により生成されるピーキング信号成分の大きさを制御することにほかならないのであるから、後者の技術を対象としてピーキング量の自動制御を行う場合に信号ピーキング手段自体を制御して生成されるピーキング信号成分の大きさを制御することは、ピーキング信号成分の大きさの制御手法の一つとして当然に想定されるといわなければならない。

そして、前記三の5における検討の結果を考慮しつつ、甲第二ないし第五号証を精査しても、本願発明が前記の制御手法を採用するに当たり、格別の技術的困難を克服したとも、またその採用により格別の技術的作用効果を得たとも認められない。

したがって、右の制御手法の採用は、格別の考案力を要しないでなしえたものというべきであるから、この結論と同旨である審決の判断は、相違点(2)が相違点(1)の構成変更に伴って必然的に付加される構成の変更であるとした点では、当を得ないとはいっても、結局正当であるというべきであって、取消事由2は失当である。

五  取消事由3について

原告は、まず、引用例1記載の発明と異なり、本願発明では回路構成が一組の差動増幅器8688で足りるために回路構成が簡潔になることを前提に、本願発明の作用効果の顕著性を主張する。

しかしながら、前記二において認定した本願発明の要旨と対比すれば、このような具体的回路は本願発明の構成要件に含まれないことが明らかである。しかも、前述のとおり、引用例1記載の発明と本願発明とで前提とする画質調節の技術が異なるのであるから、一部の回路構成だけを取り出して比較し、その差異をいうこと自体意味がなく、いずれにしても、右の原告の主張は失当である。

また、原告は、引用例1記載の発明では輝度信号そのものを変形してピーキング済輝度信号を得ているため輝度信号成分が不所望な歪を生じやすいが、本願発明ではピーキング信号成分と輝度信号成分とを合成してピーキング済輝度信号を得ているため輝度信号成分が歪むのを防ぐことができるから、本願発明には顕著な作用効果がある、と主張する。

しかし、右の主張に係る引用例1記載の発明の特質は、引用例1記載の発明が自動化の対象とする画質調節技術(輝度信号そのものの伝送周波数特性を調節して画質調節を行う前者の技術)自体の特質をいうものであり、同様、本願発明の特質も、本願発明が自動化の対象とする画質調節技術(輝度信号に対するピーキング信号成分の付加により画質調節を行う後者の技術)自体の特質をいうものであることが明らかであり、結局右の主張に係る両者の差異は前者の技術と後者の技術の差異に帰着し、本願発明によってもたられた格別の作用効果である、ということはできない。

さらに、原告は、輝度信号が微弱で雑音が多い場合、引用例1記載の発明では輝度信号中の高周波数成分が抑圧されて画像がぼけ不鮮明になることもあるが、本願発明ではこのような場合でも輝度信号自体はそのまま送られるため画像がぼけたり不鮮明になったりすることがない、と主張する。

しかしながら、前記三の5において検討したとおり、この主張に係る作用効果も本願発明によってもたらされる格別の作用効果といえない。

したがって、審決に原告が主張するような作用効果の看過はなく、取消事由3も理由がない。

六  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、一五八条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙第一

〈省略〉

〈省略〉

別紙第二

〈省略〉

別紙第三

〈省略〉

別紙第四

〈省略〉

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